コミュナル・リビング(Communal Living)を考える

高齢化・人口減少社会における新しい暮らし方、共同体的な暮らし方(コミュナル・リビング)について、さまざまな視点から考察します

イスラエルの「キブツ」とは何か 2

今回は、アミア・リブリッヒ著、樋口範子訳『キブツ その素顔』(ミルトス、1993年)を参考に、キブツの内容をメモする。

キブツとは
・イスラエルに発達した共同体社会(集団農場、共同農村)である。
・所有、生産、消費、生活の各分野が協同化されている独特の形態を持つ村である。
・現在約300のキブツがイスラエル国内に散在している。
・ひとつのキブツの大きさは人口50人から2千人近い規模までさまざまで平均500700人である。
・キブツ総人口は約13万人(1990年現在)イスラエル人口の約3%にあたる。

キブツの歴史
・最初のキブツは1910年ころ建設された。
・はっきりとした要因ではなく、下記のいくつかの要因が重なって生まれた社会である。
・第119世紀後半のロシア、東欧でのユダヤ人迫害
・第2:シオニズムと当時のヨーロッパに台頭したマルクス主義、ナロードニキ(ロシアに生まれた農本主義的な急進思想)、トルストイの描いた理想農村主義の影響
・第3:この時代のパレスチナにおけるユダヤ人のおかれていた困難な状況
上記要因を背景として、
・シオニズム(国家再建)を進める政治運動の中心組織として、1897年にシオニスト機構が発足
・開拓のためにパレスチナ事務局が設置され、1909年、シオニスト機構の下部組織ユダヤ民族基金が購入した土地で、優秀な青年労働者7人を1年契約で自主的に開拓させるという実験が試みられた。
・この成功を機に、新たな労働者を募集し、入植した後の農業管理を彼らに委譲し、定住の権利を与えるという大胆な条件も加えられるようになった。これが最初のキブツの原型となった。

キブツの外観
・どのキブツも果樹園、小麦畑、綿畑などの広大な農場に囲まれており、その中に生活区域が一カ所にまとまった形になっている。
・生活区域の中心には大きな食堂があり、その近くに事務所、診療所、郵便局、売店、図書館、娯楽談話室、洗濯場、衣料庫などの共同施設、さらにメンバーの個人住宅、子供達の家、学校などが散らばっている。
・立派な劇場、美術館、体育館をもったキブツもある。

キブツの原則
集団による所有:土地、生産手段、建物などの基本財産は、すべて集団による共有。メンバーの私有は限定されているが、近年修正される傾向にある。
集団による生産と労働:生産計画は専門の委員会によって立案され、総会の承認で実行に移される。必要な労働力の配分は、労働委員会や労働調整係によって配分・決定される。
集団によるサーヴィスと消費:個人家庭においては普通の主婦の仕事とされる炊事や洗濯などの家事も、すべて集団によってなされる。
共同教育:子供の養育と教育も共同体全体の責任になっている。
直接民主主義:キブツの最高意思決定機関は、メンバー全員の参加による総会で、重要な議案、個人の進路選択も、この場の総意に基づいて決定される。

キブツの評価
貧富の差のない社会:労働、住宅、医療(社会保障)、教育などは平等に保障されており、貧富の差はない。個人的な買い物、旅行などのために一定の金額が個人に割り当てて支給される。
労働価値の平等:頭脳労働と肉体労働の間に地位や対価の差別は無く、すべての労働は等しく評価される。
男女の平等:女性も男性と同じく一日八時間の労働を義務づけられる。女性はキブツのほとんどの職場に進出して責任ある地位に就いているケースも多い。
終身社会保障:メンバーの一生と各メンバーの両親の老後はキブツが保障している。病気や事故により働くことが出来ない身体になったとしても生活と看護はキブツによって保障される。老人の社会参加も保障される。
共同教育の成果:教育の平等が実現され、18歳になるまでは全く平等な保育、教育の場が与えられている。
高い生産性と経済効率:消費・サービス部門の協同化によって経済面の合理化も達成している。例えば家電製品も各住戸に導入する代わりに、全体で大型な設備を備えればいい。食料や日用品の購入も無駄がない。一般家庭では生み出すことの難しい女性の労働力を、保育施設、調理場、洗濯場などによる家事の解放をして、合理的に活用している。
自然と人に恵まれた環境:自然環境に恵まれ、騒音や排気ガスや車の危険に悩まされることのない静かな生活に包まれ、果樹園や野原への散策は人々の日常の中に根付いている。





イスラエルの「キブツ」とは何か

血のつながりのない人々同士が、共同生活を営むには何らかの共通の目標や目的が存在する場合が多いはずだ。例えば、それは信仰上の理由に基づくものであったり、政治的思想信条に基づくものであったりする。「キブツ」もそのひとつである。先日の朝日新聞に近年のキブツの活動を紹介する記事が掲載されていた。(2018919日朝日新聞朝刊)以下、この記事を引用しながらキブツの活動を紹介する。

 

キブツは、イスラエルで生まれた独自の共同生産、集団生活を営む集団のことを指す。キブツはヘブライ語で集団を意味する。キブツがイスラエルに生まれた契機は20世紀初頭にさかのぼる。当時、全世界で吹き荒れていた社会主義活動がその底流にあった。1910年、北部のガリラヤ湖畔に私有財産を否定し、農業や伝統的な工業を共同で営みつつ集団生活を送る共同体「キブツ」が生まれた。

その後、1948年のイスラエル建国にあたり国土の境界付近に多くのキブツが設けられ、ユダヤ人の「民族的郷土」をつくる入植活動を担ったという。そして、これをある種の「理想郷」と捉えた世界各地の若者たちが、この地に集ってきた。

資本主義VS共産主義という世界を分断した思想対立の一極の理想郷の具体化がこの地に於いて実現したわけである。

1990年に冷戦構造は終結を向かえたが、キブツは思想背景から離れたかたちで現在も機能している。当初は、農業を中心とする共同体であったが、その後、工業へのシフトを進めた。また、子供は親元から離し集団で育てる。家や財産も含めた完全な共有制といった厳格なスタイルから、私有化もゆるやかに導入し、私有化された家で親子同居スタイルが現在の主流になりつつあるという。

 

現在、キブツの数は282を数え、人口は近年増加傾向で17万人を越えるという。(全国団体「キブツ運動」などによる)近年のイスラエルは、サイバーセキュリティ技術、軍事技術を中心に世界の最先端技術保有国として知られているが、キブツの中にも、そのような先端中核技術を保有している組織があるという。

少量の水で植物を栽培する「点滴灌漑」技術を保有するネタファム社は、キブツ・ハツェリム発祥。世界180の企業や政府機関のシステム防衛を請け負うササ・ソフトウェア社はキブツ・ササから生まれた。

このような先端技術が生まれる土壌がキブツ由来なのかどうかは不明であるが、共同生活を送る上で生まれる「暮らしやすさ」が、現在でもキブツに入りたいと考える人々を生んでいるようであり、その結果として高い技術を保有する人々をキブツで仲間化できているのかもしれない。

 

 

「家事のソーシャル化」とコミュニティ・リビング

今回は、家事のソーシャル化という視点からコミュニティ・リビングについて考えてみたいと思う。

家事とは、炊事、洗濯、掃除、育児など、家庭生活を営む上において必要と考えられる仕事のことである。かつて妻が専業主婦であった時代には、これらの仕事は妻の仕事として認識されることが多かった。しかし、近年、結婚し出産しても、仕事を離れることなく、働き続ける女性たちが増加してくるなかで、家事の内容が改めて見直されてきている。

例えば、洗濯である。従来、洗濯は自宅の洗濯機で行われ、選択を行い、干したり、たたんだりする作業も妻の役割だった。しかし働き続けるなかで、大量の洗濯物が生じた場合、家庭用の洗濯機を何度も回して洗濯をするのは大変である。そこで最近急成長を遂げているのが、業務用機器を設置したコインランドリーである。一回で10㎏、20㎏のまとめ洗いや乾燥が出来る業務用コインランドリーは、日々忙しい中で洗濯をこなして行かねばならない主婦にとってありがたい存在として映っているはずだ。

これは言ってみれば、家事機能の一部アウトソーシングである。
従来は、家庭の中で完結していた家事業務を効率よく行うために、外部のリソースを上手く活用するという視点である。

そして最近では、こうして外部化された家事業務の場所を、地域のコミュニティにおける交流の場として活用しようとする動きが徐々に生まれ始めている。

ネットやテレビで散見した情報なので、どこまで正確な情報であるかについては、まだ確信が持てないが、このようなソーシャル・ランドリーのはしりは、米国ポートランドにオープンした「スピンランドリーラウンジ(Spin Loundry Lounge)のようだ。

同様の動きは日本でも起こり始めている。東京両国にオープンしている「喫茶ランドリー」も同じような考え方に基づくものだ。同じく東京池袋から一駅の椎名町駅前にある旅館&ミシンコミュニティカフェ「シーナと一平」も似たようなコンセプトに基づいて設けられた施設のように見受けられる。

このように考えていくと、家事の省エネ化ニーズに基づき、アウトソーシングされた家事拠点を元に地域のコミュニティづくりを進めて行くという考え方は、なにかしらの可能性が秘めているようにも感じられる。
今回紹介した「洗濯(ランドリー)」「裁縫(ミシン)」もアウトシーシング可能な機能であるが、それ以外にも「炊事(キッチン)」とか「掃除(クリーニング)」などにも可能性はあるかもしれない。

地域コミュニティが希薄化している中で、無理矢理感や押しつけ感がなく、地元民が交流できるまちづくりが求められているが、「家事のソーシャル化」というキーワードにもしかすると可能性があるかもしれない。





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